7坪ハウスは、今年の夏で10年を迎える。その間、住人の暮らしはいろいろと変化したけれど、その都度、新たな環境に合うように、そして何よりも居心地のよい空間になるように、7坪ハウスをアップデートしてきた。
この10年で7坪ハウスはどのように変化してきたのだろうか? プロローグ、本編6回、エピローグの全8本で、10年の軌跡を紹介する。
本編1回目の今回は、7坪ハウスの特等席を陣取るショップスペースのお話。たった4畳しかないスペースだけど、3メートルを超す大きな窓と、5メートルを超す天井高で、狭さを感じさせない。ミニマム空間ながら、10年の間にいろいろと変化を遂げた。
先走ったショップカードがFikaのオープンを決定!
「北欧雑貨の店 Fika」をオープンしたのは、2013年5月25日のことだ。前年の9月に7坪ハウスに引っ越して以来、燃え尽き症候群に陥り、何もする気になれない日々が続いていた。
買い揃えた商品たちを、大きな棚に並べてはいたものの、お店のオープンなど考えられない状態だった。近所の方々からは、「ここは普通の家? それともお店?」と、不思議がられていた。
重い腰を上げたきっかけは、ショップカードだった。やる気が出ない中でも、ショップロゴのデザイン、そして看板とショップカードの制作は進めていた。しかし、完成したショップカードと看板が届いても、花粉症を理由にオープン準備を先延ばしにしていた。
そんなだらけた日々を送っていた2013年の4月下旬。ふとショップカードを見ると、そこにはまったく頭から抜け落ちていた「2013 Spring」の文字が…。
「まずい、春が終わってしまう。。。」
すでに春は終わりに向かっていた。暦の上では初夏だけれど、一般的にはギリギリ春だろうと、ようやく5月の最終土曜日である5月25日をオープン日に設定し、急ピッチで準備に取り掛かった。
A4サイズで刷り上がってきたショップカードの一部に切れ目を入れ、8分の1の大きさになるように折って、袋に入れる。最初に作ったショップカードは、ストーリー仕立ての冊子風。なかなか凝った作りだったので、準備も大変だった。
その他、紙袋やプチプチなど梱包用品を準備したり、ロゴのハンコを作って、紙袋に押したり、レジを購入してレシートにロゴが入るように設定したり、商品に値段をつけたり……。
週末を利用した超特急での準備だったが、なんとか5月25日に「Fika」をオープンすることができた。SNSなどで告知することもなく、ただ看板を出しただけのスタートだった。のんびりとマイペースでの営業は、当初から今も変わらない。
俯瞰で見るショップの変遷
4畳という狭い空間ながら、2階で使用していたキャビネットをお店の陳列棚にしたり、商品を飾っていたチェストを販売したり、什器を増やしたり減らしたりしながらレイアウトは結構変えていた。
なかでも一番変わった部分はDIYで棚を設置したことだ。
無垢の板に白い塗料を塗ったのだが、横着して養生をしなかったため、モルタルには白いペンキの垂れた後が跡っている。この棚はなかなか便利で、商品を陳列しやすい。
7坪ハウスはどこもかしこも狭い。とくにショップは奥行きがないので、全体を撮影するのが難しい。そこで苦肉の策というべきか、3階からショップを見下ろす構図で撮影することが多い。
いつもカメラを落とさないかヒヤヒヤしながら撮影を見ているが、この構図は編集者さんやカメラマンさんの評判がいい。そこで、3階からの俯瞰で、10年の変遷を振り返る。
【2012年】本格的に引っ越す前。オープンハウスのために、徒歩3分の仮住まいから、手で運べる家具や雑貨を運び入れた 【2012年〜2013年】引っ越しが終わり、ショップをオープンするまでの間。まだすっきりしている
【2013年5月〜】お店をオープンし、商品と什器が増えていく 【2014年〜2016年】棚を設置したり、2階で使用していたキャビネットが加わったり、商品の数も多く、この数年間はかなり混雑した店舗レイアウトだった
【2017〜2018年】什器の位置を変えて、4畳のスペースをいかに広く見せるか試行錯誤していた時期。思っていた以上に棚卸しが大変で、少しずつ商品を厳選し出した時期でもある 【2019年〜現在】キャビネットなどの什器を手放し、すっきりした空間に
ショップスペース=趣味の部屋
引っ越してしばらくはお店のオープン準備に取りかかれず、ショップスペースは販売する予定の商品置き場になっていた。同時に、売るつもりはない絵なども含めて、好きなものを飾った「趣味の部屋」でもあった。
その名残りから、お店をオープンして以降、今に至るまで、商品ではない私物がちょこちょこ飾ってある。当然、値段はつけていないので、「これはおいくらですか?」と聞かれることもしばしば。
「すみません。それは売り物ではなくて。。。」というのは少々心苦しいけれど、そもそも趣味の北欧ヴィンテージ雑貨集めからスタートした店なのだから仕方がない。しかも自宅の一角であり、今でも「趣味の部屋」であることに変わりはない。
よく値段を聞かれる非売品がいくつかある。ベスト3を紹介してみる。
■第3位:ダーラナホース
7坪ハウスが建って間もない頃から、ショップに面した大きな窓にはスウェーデンの工芸品、ダーラナホースが並んでいる。
初代のダーラナホースは色のついていない無垢。だいぶ汚れてしまったため、去年、カラフルなダーラナホースにバトンタッチしていただいた。カラフルなダーラナホースは通常、お店では扱っていないため、2代目になってからはさらに聞かれるようになった。
初代の無垢のダーラナホースたち 現在はカラフルなダーラナホースが並んでいる
■第2位:Arabiaのデミタスカップ
Arabia(フィンランド)のデミタスカップたち。入り口を入ってすぐの左側の壁に並んでいる。
もともとこの棚にも商品を並べていた。階段の途中に立ち止まって見ることになる位置にあるので危ないことと、オープン当初、デミタスカップ自体の人気が低かったことから、私物コレクション棚に変貌した。
ところが、コロナ禍になってからというもの、デミタスカップの価格を聞かれることがとても増えた。家でのカフェ時間が増えて、カップなどにもこだわる人が増えたのかもしれない。
■第1位:2枚の絵
どちらも20年近く前に購入した絵だ。物持ちはあまりよいほうではないが、この2点の絵と2階に飾っているサヴィニャックのポスターは、長年手放さずにいる。
黄色い犬(?)は吉祥寺の雑貨屋で見つけたものだ。購入したショップも、画家もまったく覚えていないけど、ユーモアがあって、見るたびにくすっと笑ってしまうような絵だ。
女の子のものは、実は絵ではなく版画。関節部分が自由に動くようになっており、段差のある場所に座らせることもできる立体オブジェだ。一度ヒジ関節が取れてしまったことがあり、その時に額装した。
たしか金沢で活動しているクリエーターの作品だったと記憶している。
これからのアップデート in shop
ショップスペースに関しての目下のアップデート目標は、入り口を入った正面にある、大きな壁の使い方だ。
小さな棚を設置してみたり、私物の絵を飾ってみたり、下のほうだけをごちゃごちゃと変更したりはしていたが、なかなか活かすことができないでいた。
2019年にお花と織り物のユニット作家「花と織」さんと知り合ってから、少しずつ壁に商品を飾るようになった。それまで、壁に飾ることで映える商品の取り扱いがなかったのだ。
今後は、商品の展示はもちろん、プロジェクターで映像を映し出すなど、上のほうまで使って見せられる使い方、大きな壁をもっと活かせる使い方も考えていきたい。
花と織さんの作品は、壁に飾ることで映える、初めての商品だった 2020年 企画展 はる。「ミモザ展」
大きな壁を飾った初めての絵の商品。見瀬理恵子さんの作品 2021年 企画展なつ。「ダーラナホース展」
経年変化を楽しむ in shop
10年も経つと、いろいろと経年変化は現れる。大きい部分だと、モルタルにヒビが入ったり、大きな窓のスチール枠の白いペンキが剥げたり、入り口ドアの外の取っ手(流木)が少々朽ちてきていたり……。
とはいえ、どれも暮らしに大きな影響を及ぼすほどではないため、メンテナンスをするには至っていない。
何よりも、それらの経年変化に愛着を感じているところがある。竣工当初、どこもかしこも真っ白すぎて落ち着かない感じがあった。そのせいか、新築の頃から、壁や床が汚れても、傷がついても、まったく気にならなかった。
大きな窓枠のスチール部分については、中途半端な剥げ方が気になってはいるものの、きれいに全部剥がれてしまえば、そのままでもかっこいい気がしている。
ドアの色もだいぶ変化し、照明は錆びている 内側の取っ手がもともとの状態。外側の取っ手は色が変わり、材質も劣化してきた
ヒビが入っている床のモルタル 塗料が剥げてまだらになったスチールの窓枠
ドアの塗り替えと外側の取っ手の取り替えはそろそろかなと思っているが、そのほかについてはお店の営業に支障が出ない限り、もう少し経年変化を楽しむつもりだ。
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次回、本編の2回目は「1階のバックヤード編」です。